前回のブログは、脳波で睡眠を計測・チェックすることについてお伝えしました。
今回始まる新しいシーズンでは「脳波実験編」と題して、わたしが日々の業務の中で、
お客様に脳波をご活用いただけるように、どのようなお仕事をしているか。
その雰囲気をお伝えしようと思います。
「脳波って難しそうだ・・」
「何をどうやっていいかわからないよ」
それが普通。
そんな状態から、みなさまをどんなふうにサポートしていくか。お楽しみに。
ある日、いつものように、わたし(ハル)のデスクの電話が鳴った。
「はい、PGV株式会社でございます!」
「わたし、ABC食品株式会社の、商品開発をしております、多部、と申します」
それが、わたくしと多部さんによるプロジェクトの幕開けだったのです。
「私、飲料製品の開発部で、アピールする製品評価方法の提案を期待されててですね・・・
以前、食品開発展オンラインでPGVさんのビデオ* を見かけたことがあるんですけど」
「はい、ありがとうございます!
食品については、わたくし自身もいくつかの案件のサポート経験がございます。
ご覧いただいたのは、その一例をご説明したビデオですね」
「それがもしかして、私の製品評価に使えるんじゃないかな、と思って。
もう少し詳しく教えていただけないかと思いまして」
「はい、ぜひお話しさせていただきたいです! それではですね・・・」
* 食品開発展 (https://hijapan.info/) 2022に出展したビデオを指しています。参加者しか閲覧できません。
まずはWeb面談のご予約をいただき、後日1時間ほどのWeb面談を実施することにしました。
後日、Web面談にて。
PGVでは最初のWeb面談で
- PGVのご紹介
- パッチ式脳波計について
- 脳波でどんなことが調べられるか
- 食品業界での活用例 (*クライアント名は伏せて)
という項目を、スライドをベースにご説明します。
PGVのご説明に続いて、多部様にとって
- 何が課題なのか
- 何がゴールなのか
- ゴールに対して脳波でなにができるのか
- ゴールに至るまでのステップはどう考えられるか
をインタビューしながら、大まかなロードマップとして描こう、と思っていたのですが・・・
「それではですね、多部さんの現状の課題をおきかせ・・・」
「ねぇハルさん! 脳波って、その人が考えてることがわかっちゃうんですよね?」
おおいきなり、ど直球な質問ですが。
「うーん、それは表現にもよりますが、"考えてること" はわからないですね」
「そうなんですか? ええ〜、それを期待してたのになぁ」
「どんな期待をなさってたんですか?」
「私たちがよくやってるフォーカスグループ*だと、試作品サンプルを飲んでもらって、
"おいしい"とか"甘すぎる"とか、アンケートには回答いただくんです。
でもすごく曖昧じゃないですか、言葉って。それが、脳波だったら
"あ、こんなに甘く感じてるのか!" とか、
"甘いって言ってるけど、実は酸っぱいって脳は感じてるぞ?!" とか
本当の感情がわかるんじゃないかな〜?と思って」
「なるほど。うーん、残念ですが・・・」
これは、脳波に関する、よくある過剰な期待の一例なのです。
* フォーカスグループとは:グループインタビューとも呼ばれ、製品の試作品を使って、
数人のユーザにインタビューやディスカッションをしながら、有用な意見を引き出す方法です。
脳波への期待が "過剰" というのは、どういうことでしょう?
PGVでは、脳波を使っていろいろな研究を支援させていただいています。でも現在のところ、脳波から分かることは非常に、ひじょ〜〜に限られている。これが現実なのです。
ちょっと例をあげてみましょう。
よく「この音楽を聴くと、脳波にアルファ波が出て、よく眠れます」みたいな言い方がありますね。
傾向としてはそういうこともあるかもしれないです。でも、脳の反応・脳波の反応は非常に個人差が大きく、ひとくくりになにかを言い切ることはできないのです。
音楽の例だと
- この音楽を聴いたからアルファ波が出たのか?
- アルファ波が出たからよく眠れる(眠れた)のか?
- 元々よく眠れる夜の直前だったからアルファ波が出やすかたのか?
- そもそも誰でもが「アルファ波」が出てればよく眠れるのか?
などなど、いくらでも仮説や反論・疑いが立てられるのです。
単純に見える例でも、いろんな要因が複雑にからみあっていて、そのなにが正しいのかは、今のところわからない、というのが正直な脳波の限界なのです。
「え〜、じゃあ、脳波ってなにができるんですか? 脳波なんか調べて、意味あるんですか?」
そう言われると、なかなかに苦しい脳波の世界。
みなさん、期待が大きいのが当然ですよね。なんたって、"脳波" ってすごそうだから。
でも、脳波でしっかり言えることもあるんです。そのさわりについて次回、お伝えしたいと思います。
2023.12.18
(つづく)
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