(前回からのつづき。多部さんとハルがランチ食べながら話してます)
「どうですか?ハルさん。 私、ちゃんと実験まわせてますか?」
「ええ、大丈夫ですよ。何かご不安ですか?」
「いや〜、こんなことするの初めてだから。
純粋に、どういうのが "いい実験運び" なのか分からなくって」
「そうですよね。でもいつも実験って、
淡々と決められたルーティンを、間違えないようにきっちりこなす、
というのが重要ですから」
そう、実験は、とにかく「コツコツ勝負」なのです。
計画を間違えずきっちり組んだら、計画通りに手順をこなし、ひとつひとつの出来事を地道にしっかり記録し、余計なことはせず、ちょっとでも予定外のことを排除していく。予定外のことがあったら、すかさずリカバリしていく。そういう取り組みです。
「わたしなんか、普段からそそっかしいんで、多部さんのほうがむしろ
わたしより落ち着いててしっかりしてる、って感心してます」
「そうなんですか? じゃあ、もっと大規模に実験やっても大丈夫かなあ?」
「いやー、いやいや。実験をなめてはいけません!」
今回は、小規模なので私たちだけで実験運営していますが、人数やタスク数など、規模が大きくなると、実際にはその道のプロであるCRO (医薬品開発業務受託機関 / Contract Research Organization) という外部の企業さんに、実験運営をお任せすることもかなり多いのです。
実際、一度に何人もの被験者を回そうとすると、運営側が少人数ではものすごく大変になってしまいます。それはミスにもつながるし、ミスが実験結果を左右して、結果の信頼性が失われてしまっては、すべてが台無しですもの。
「ふうーん、そうなんですね。
ちなみに、ハルさんはどのくらいの規模の実験をやったことがあるんですか?」
「わたしの直接現場に行った中では、数十人を、それぞれ4回ずつ。
日を変えて何度も実験会場に来ていただく、というのが一番大規模ですかね〜。
もちろんCROさんと一緒にやったんですけど、あれはそれでも大変だった・・・」
「どの辺がですか?」
「これはもう、被験者さんにご協力いただくしかないところなんですけど、、、」
実際によくある実験現場のトラブルとしては、被験者さんが
- ドタキャンする・無断欠席する
- 食事などの制限を守らない
- 計測途中で寝てしまう (脳波を計測してると割と眠くなる)
というのが多いです。
これらが起きると、その計測、あるいはその被験者さんは正常な計測データにカウントできなくなってしまい・・・
「結果、解析に必要なデータが不足しちゃうなんてことも起きて、
あぁ〜もうほんと・・・!」
「は、ははぁ・・・」
そもそも実験の規模を大規模にして、しかも脳波の計測となると、いろんな制約が生じてくるのです。
例えば、脳波を測る時間帯を、午前と午後、同じ比率で配分したり、被験者の年齢や性別など、さまざまなパラメータを組み合わせて、きっちり計画表を作る必要があるのですが、被験者さんのスケジュールを合わせる必要もあり、この "紙の上での計画" だけでもかなり大変な作業なのです。
だから
「すみませ〜ん、ちょっと寝坊しちゃって・・・午後にしてもいいですか?」
「ごめんなさい昨日うっかりお酒飲んじゃって・・・明日にしたいんですが」
などという、被験者さんの都合による急な変更は、受け付けられないのが通例です。
「そうなると、解析に使えるデータを減らして、解析計画を変更するか。
それとも、追加のお金を出して、別の実験日の予定を組み直すか。
などなど、クライアントさんと相談し、決めて、各所に連絡して、調整して・・・
もう、本当にほんとーーーに大変なんです!」
「ハルさんわかりましたわかりました!そうか〜やっぱり大変なんですね。
・・・でもまあそれはそれとして、午後からも計測、頑張りましょうね!」
2024.02.26
(つづく)
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