小児神経科医として、てんかん、発達障害の診療・研究に取り組まれている
下野九理子先生に、臨床及び研究において脳波を用いる意義や課題についてお聞きしました
――これまで取り組まれてきた先生の研究について教えてください。
今まで小児神経科医として取り組んできており、てんかん診療がとても多いです。てんかん診療の中で必要な診断ツールとして25年以上脳波を判読し続けてきました。
現在所属している連合小児発達学研究科は、平成21年に設立した学際領域で構成される子どものこころを研究する専門家育成大学院です。発達障害診療と研究、てんかん診療・研究のどちらも行っています。発達障害の子どもたちは高率にてんかんを合併しますので、あわせて診る必要があり、発達障害の子ども達にも脳波を計測しています。逆にてんかん診療をしておりますと、発作のコントロールのみならず、いかに認知発達を健やかに維持できるかがてんかん患者さんのQOLに重要だと思うようになりました。
――脳波を研究に取り入れた背景はどのようなものですか。
脳波は、脳の活動を非侵襲的かつ、直接的に計測できます。また繰り返し行うこともできますので、発達の経過とともに脳波変化を見ることができますし、認知的課題や刺激時の脳波を見ることで感覚や認知機能に特化した脳活動を見ていくことができます。
――睡眠と発達障害の関係について教えていただけますか
発達障害児には睡眠障害の割合が非常に多いです。入眠困難・中途覚醒が多く、保護者さんが疲弊してしまいます。
また、睡眠のサイクルが整わないと日中にすごく不機嫌になったり、なんとなく眠気が引きずったりすることがあり、問題行動にもつながりますし、とても大きな問題です。
一方で、睡眠障害を改善させると日中の子ども達の機嫌が良くなり、パフォーマンスが上がり、発達にも良い影響を与えます。
――てんかんと睡眠も関係しますでしょうか。
睡眠不足はてんかんを誘発する原因になるため、てんかん患者は睡眠不足だとてんかん発作が起こりやすくなります。また、睡眠の質が悪いと神経発達上の状態も心理状態もよくありません。そして神経発達症の患者さんではてんかんの合併が多いという、三角関係があります。
――特に発達障害の症状がなくても睡眠の質が悪いことで発達に関連することもあるのでしょうか。
海外の子どもの研究によると、睡眠の質によって落ち着きがない、集中力がないということにつながるのではと言われています。
――脳波計測の意義についてもう少し教えてください。てんかんの診断に脳波計測が必要と思いますが、治療経過においても脳波データが必要となりますか。
とても大事ですね。
見た目にはてんかん発作はまったく起こしてないけれども、脳波がとても悪く、だんだん学習ができなくなるケースでは脳波診断が重要です。
――発達障害の患者様に対して、てんかんがあるかどうか以外に、何か脳波を計測する意義はありますでしょうか。
痙攣を一度も起こしたことがないのに、てんかん性の脳波異常がある発達障害の患者さんがおられます。これを治療するかしないかは悩むところですが、高度に脳波異常がある場合には、治療すると行動が穏やかになったり、聞き分けが良くなったり、行動面に改善が見られたりします。
――脳波は、てんかんの診断・治療方針、睡眠評価など様々な場面で使われていますが、従来の10/20法で計測する課題についてお聞かせください。
基本的に10/20法ではペーストをつけますので、つけたら必ず頭を洗わないといけない、それが嫌だと言う子はいます。キャップ型の脳波計でジェルを入れるものもあり、比較的簡便に装着できますが、ジェルなので汚れることは一緒です。
――次に簡易脳波計の課題についてお聞かせください。
脳波計測の最大の難点はアーチファクトです。体の動き、心電図、汗、交流電流など様々な雑音が入りますので、アーチファクトをきっちり処理できる方法がないと、何を計測しているかがよくわからなくなります。そこをどうやって処理するかが、新しい脳波計開発の最大の課題だと思います。
――いろいろと課題をお伺いいたしましたが、従来の脳波計と比較して簡易脳波計のメリットがあれば教えてください。
どうしても脳波検査室に入りたくない、脳波検査は嫌だ、という理由で脳波計測をまったくできないぐらいだったら、簡易脳波計で計測する、という活用方法はあると思っています。あとは、夜間にてんかん発作を起こしているかどうかが、親と別で寝ているのでわからない、というような場合も、簡易脳波計で評価に使えると便利だと思います。