「あの〜営業部の中原ですけど〜」
「はい、ご参加ありがとうございます!
えーっと・・・はい!中原様ですね。お忙しいところ、ありがとうございます。
今日はコーヒーとかお茶とか、お薬とか、飲まれてませんか?」
「はい、大丈夫っす」
「じゃあ、こちらでご説明しますね」
今日はPGVのベテランメンバー (わたくしよりだいぶ年下だけど) である黒瀬さんにも、受付や運営のお手伝いをしてもらっています。
前回 (Episode2-8)、あれから多部さんと、予想通り残業もし、終電前のラーメンも食べ(!)、その後も数日かけて実験の詳細を詰めてゆき、まず少人数でテスト的に手応えを調べてみることにしたのでした。
本実験を始める前の「プレ実験」という位置付けです。
プレ実験は、下図のプロトコルで実施することにしました。
この図のうち「after」の脳波が、ドリンクによって差が出るかどうか、が実験のポイントとなります。
ドリンクの種類は、全部で4種類。特徴の異なるドリンクの組み合わせで始めてみることにしました。
本来、色や香りなどの付加情報の違いは、厳密にはなくしたい(全部の試験品で同一にしたい)要素です。例えば、"飲む" よりも実際には "香り" の方が脳波に影響していた、ということもあり得るからです。
が、そこは商品の特性上、完全に全条件を合わせることも難しいので、プレ実験では「できるだけ香りや色は近く、味や成分の特徴が異なる」ドリンクを選別しました。
そのあたりの影響が読み切れない不確定要素も含め、まずはプレ実験の中で確認・分析していくのも、重要な進め方のポイントです。
さて、今日はそのプレ実験初日なのです!
多部さんも黒瀬さんと一緒に、受付と実験全体の運営をやってくださってます。
わたくしハルは、被験者さんの計測のサポートです。
弊社のパッチ式脳波計はもちろん、ほとんどの方が脳波計測自体、初体験のはずなので、落ち着いて計測ミスのないように進めます。みなさんの貴重なお時間をいただいているのですから。
「それではまず中原様、
このウェットティッシュで、おでこと左耳の後ろをを拭いてください。
脳波はとても繊細で、皮脂やお化粧に大きく影響されますので・・・」
「あー俺、脂ギッシュなんだよね〜(笑)」
このようなお願い (実験では「教示」と呼ばれます) をしながら、手順通りに進めていきます。
被験者さんがしっかりおでこ等の皮脂を拭き取ったら、脳波計を装着していただき、プロトコルに沿った計測を開始。
今回の計測場所は、多部さんのオフィスにある、いちばん広い会議室をお借りしました。電気的なノイズが少なく、集中力をそぐ雑音も少ない環境だったためです。
プロトコル中のタスクでは、実験対象であるドリンクのいずれかを "銘柄を隠して" 飲んでいただきます。
もちろん、銘柄が事前にわかっていると、先入観が脳波に影響することが考えられるからですね。
また、1回に複数のドリンクの計測をするのではなく、1日に1種類、あるいは午前午後に1種類ずつなど、それぞれの試験品の影響を独立させるように実験計画を立てました。
その点、被験者のみなさんの時間割や、スケジュールの管理もとても重要です。
あと、今回はプレ実験ということもあり、わたくしも多部さんも、どの被験者さんに、いつ、どのドリンクを飲んでいただくのかは知っています。
ですが、さらに本格的な実験では、被験者も運用者も、今飲んでいるのがどのドリンクなのか、わからないように計画することがあります。例えば、運用者の顔の表情などで、ドリンクの内容が被験者に事前にわかってしまうことを防ぐためです。これを「二重盲検試験」といって、より精確な計測のためには重要な手法なのですが、これをきちんと実施するには、さらに緻密な計画と運用手順が必要になり、実施のハードルも上がります。もしかしたら本実験では導入するかもしれませんね。
「脳波って初めて測ったけど、案外かんたんなんだね。おつかれ〜」
「あ、中原さん、お疲れ様でした、ありがとうございま〜す。
・・・ハルさん、お疲れ様です。今の方で午前の部は終わりです。
お昼にしましょうか」
「そうですね」
「じゃあ、社食に行きましょう」
「やった!」
何を隠そう、多部さんの会社の社食に連れて行ってもらうのが、今日のわたくしの朝からの楽しみなのです。
水曜限定のレディースメニューとかもあるらしい。いいな〜、社食・・・。
2024.02.19
(つづく)
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