NAIS Entry活用事例

NAIS Entryを使った脳波AI解析事例〜③AI解析で統計検定ができる

PGVが開発した脳波AI解析クラウド「NAIS Entry」を使うと、ヒトの状態を脳波によって区別することが可能です。2つの群を区別するための代表的な手法として統計的仮説検定(以下、統計検定)が挙げられますが、AIでも統計検定が可能です。今回、被験者が音楽刺激を受けた状態の違いを「NAIS Entry」を使って解析し、有意差を判定できることを確認しました。


どうやって脳波でヒトの状態を区別するか

脈拍や心拍と比べ、生体信号の中でも脳波は、ヒトの状態に関する情報を多く含んでいます。脳波は周波数によって、α波、β波、θ波……のように成分に分解できます。各成分はヒトの状態と連動しており、たとえば、リラックスや集中しているときにはα波、緊張や警戒しているときにはβ波が強く現れます。

参考記事:脳波のAI解析をはじめよう!〜①脳波は優秀な生体信号

PGVは、脳波をより多くの成分で分解し、脳波の区別を行っています。

表1: PGVにおける脳波の周波数分解の定義

以上の特徴量に加え、脳波の周波数スペクトルの「重心」を表す指標値として、「BrainRate」をPGVが独自に定義。「BrainRate」を導入することで、脳波をより高い精度で区別できます。

 

図2: ヒトから脳波を計測・解析するイメージ

たとえば、映画や音楽の体験の違いを、脳波によって区別することが可能です。脳波からヒトの状態を区別できると、たとえば精神的な不調を事前に検知することが可能です。こうした脳波の区別は医療やヘルスケア分野だけでなく、エンターテインメントや教育など幅広い分野で応用が期待されています。

AIによる脳波の区別が有意なのかを実験で検証

以前、Sammler(2007)[*1]にもとづき、音刺激を受けたヒトの状態を脳波で区別が可能なのかについて、実験で検証してみました。

参考記事:NAIS Entryを使った脳波AI解析事例~①音楽刺激の違いを脳波で見分ける

その際、脳波をAI解析しましたが、今回の実験では統計検定が可能であることを検証しました。

実験装置として、

  1. パッチ式脳波計
  2. 脳波解析「NAIS Entry」アプリがインストールされたタブレット
  3. 音楽を聴くためのヘッドセット

を使用。以下のように実験を設計しています。

図3: 実験の設計とスケジュール

パッチ式脳波計で、Fear Musicを聴いている状態(Task A)、Happy Musicを聴いている状態(Task B)、Relax時(Task C)を計測。NAIS Entryで脳波を比較しました。

脳波データ解析の前処理

3つの状態での脳波に関する特徴量を、そのまま比較することはできません。Task前の状態(Before)の値が異なるためです。被験者がTask前の脳波をコントロールできませんので、脳波がそろうよう実験設計を行っても、限界があります。データを解析するために、補正が必要です。

そこで、Task前の状態がそろうようにZ-score変換を行い、正規化しました。

図4: Z-score変換で脳波成分のデータを正規化

正規化する前は、Task AとTask Bを行う前の状態に違いがあるものの、Z-score変換することで、両者のBefore状態をそろえることが可能になります。

 

統計検定で脳波AI解析を検証

Fear Musicを聴いている状態、Happy Musicを聴いている状態、Relax時で、脳波の各特徴量に有意な差があるかどうかを、Wilcoxonの符号検定で確認しました。

 

図5: 統計的仮説検定(統計検定)の概念図

表の数値はp値(有意確率)を示し、p値が小さいほど有意差があると判定されます。

図6: Taskを行ったときの脳波の比較。数値はp値を表す

統計検定の結果、Fear Musicを聴いている状態とリラックスしている状態との間で、Theta波に有意な差があることが判明しました。また、Happy Musicを聴いている状態とリラックスしている状態の間で、「BrainRate」に有意な差があることも確認しました。

各状態の違いを精査するため、箱ひげ図を確認しました。中心値やデータのばらつき具合など、分布の大まかな情報を可視化するのが箱ひげ図です。Fear Musicを聴いている状態の方がRelax時よりもTheta波が高いこと、Happy Musicを聴いているときの方がRelax時よりも「BrainRate」の値が低いことが、箱ひげ図でも確認できます。

図7: Taskを行ったときの特徴量に関する箱ひげ図

このように、「NAIS Entry」で生成したデータセットを用いて統計検定が行えることを実証できました。

補遺 統計検定に関する議論と追検証: 効果量測定

問題は、「脳波に違いがある」という判定が「正しい」かどうかです。とくに、Wilcoxonの符号検定のようなノンパラメトリック検定の場合、情報を減らしているため、検出力がパラメトリック検定よりも小さくなります。

統計検定では、2つの群に違いがあることを示すために、「2つの群に違いがない」という仮説を棄却する必要があります。しかし、仮説が棄却されたにもかかわらず、2つの群には違いがない可能性があります。これが「第1種の過誤」と呼ばれるものです。

統計検定の是非については長年議論されてきました。サンプル量によって第1種の過誤が生じる可能性があるためです。たとえば、たとえばサンプル数が40のときにはp値が0.049であるため有意差があると判定されますが、サンプル数が39ではp値が0.052となり有意差はないということが起こりえます。

今回NAIS Entryによる統計検定結果の有効性を増強するため、効果量を確認しました。効果量を導入することで、統計的仮説検定の結果の解釈が可能になります。たとえば、2つの群の間で有意差はなかったが効果量が大きいので本当は差がある可能性が高いとか、逆に有意差はあったがサンプル量の影響が大きいため差はほとんどないと結論付けることが可能です。すでにアメリカ心理学会(APA)の論文作成マニュアルでは、統計的仮説検定の結果に加えて効果量を報告することが推奨されています。

効果量にはCohenのdを使用しています。dが大きいほど、大きな差があるとわかります。その結果、Fear Musicを聴いている状態とRelax時とを比較した場合、Happy Musicを聴いている状態とRelax時とを比較した場合、いずれにおいてもかなり大きな差異があることが判明しました。これは、統計検定で明らかになった差異の存在を裏付ける結果となっています。

図8: Taskを行ったときの効果量dの測定

まとめ

今回、PGVの脳波AI解析クラウド「NAIS Entry」で生成したデータセットが統計検定にも使えること、さらに効果量測定によって有効性を確認しました。

なお実験の設定に関して、課題もあります。音楽刺激や色点滅刺激など刺激を与えたときに被験者が感じる疲労によって、脳波に影響を及ぼす可能性があります。そのため、疲労による脳波の状態への影響をコントロールできるよう実験を設定し、追実験を行うことが必要です。

参考文献

*1 Sammler, D., Grigutsch, M., Fritz, T. & Koelsch, S. Music and emotion: Electrophysiological correlates of the processing of pleasant and unpleasant music. Psychophysiology 44, 293–304 (2007).

 

 

 

 

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