NAIS Entry活用事例

NAIS Entryを使った脳波AI解析事例〜⑤BMI/BCIに役立つ脳波によるSSVEPの検出

今回、パッチ式脳波計で前頭部の脳波を測定し、脳波AI解析クラウド「NAIS Entry」でSSVEPの検出を試みました。 本内容は、2022年11月14日~16日に開催された第39回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム(徳島)にて発表いたしました。


脳をコンピュータなどの外部装置と接続し、ヒトの能力を補完する「BMI(Brain Machine In- terface」や「BCI(Brain Computer Interface)」の研究が進んでいます。 BMI/BCIにおいて有力な情報と考えられているのが「SSVEP(Steady State Visual Evoked Potential)」(定常状態視覚誘発電位)と呼ばれる脳波です。

SSVEPを検出できるかどうかを実験する背景

PGVが開発したパッチ式脳波計は前頭部に装着するため、後頭部の視覚野で発生するSSVEPを検出できるかについて懸念がありました。そこで今回、パッチ式脳波計を使用して脳波計測し、脳波AI解析クラウド「NAIS Entry」でSSVEPの検出を試みました。

BMI/BCIで役立つSSVEPとは

脳内では、神経細胞(ニューロン)間で電気信号を発生させることで情報の伝達が行われます。脳波は電気信号のことであり、誰にでも発生するため、BMI/BCIに有力な情報だと考えられています。 

中でもBMI/BCIの実用化に有力だと考えられている脳波が、SSVEP(定常状態視覚誘発電位)です。ヒトは外部刺激を与えられることでも脳波が発生しますが、LEDライトなどを周期的に点滅させて視覚を刺激すると、光の点滅と同じあるいは整数倍 の周波数でSSVEPが発生します。SSVEP は瞬きや眼球活動などの影響を受けにくいだけでなく、フーリエ変換で脳波解析するだけでSSVEPの刺激を確認できるというメリットがあります。

こうしたSSVEPの原理を利用することで、自分の意思を外部機器に伝えることが可能です。自分の意思と紐づいた光点滅に対して注意を向けることによって、発生するSSVEPから意思を推定し、自分のタイミングで外部機器を操作することが可能になります。

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図1:SSVEPの原理と実験の背景

実験の概要

1.パッチ式脳波計
2.脳波AI解析クラウド「NAIS Entry」アプリ

を使用し、次のように実験を設計しました。

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図2:実験の設計とスケジュール   

実験には男性3人、女性2人の計5人の被験者が参加しました。

2分間安静状態の後、各周波数で黄色点滅を1分間発生させ、再び2分間安静状態を続けました。光点滅を与える前(Before)と光点滅を与えている最中(Task)にパッチ式脳波計で脳波を計測し、

被験者に対して黄色点滅と赤色点滅をそれぞれ提示し、同じあるいは整数倍の周波数でピーク値を発生させることができればSSVEPが検出されたと判断できます。

実験結果

まず15Hzと20Hzの黄色点滅を提示する実験を行いました。その結果、2人の被験者(Sub01、Sub04)では、いずれの周波数でもピーク値が発生し、SSVEPの検出に成功しました。

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図3:黄色の光点滅を提示した際の被験者のSSVEPの推定結果①

一方2人の被験者は、1つの周波数でのみSSVEPの検出に成功しています。

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図4:黄色の光点滅を提示した際の被験者のSSVEPの推定結果②

中には、黄色点滅でもSSVEPの検出ができないケースも発生しました(Sub05)。

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図5:黄色の光点滅を提示した際の被験者のSSVEPの推定結果③

続いて、15Hzと20Hzの赤色点滅で同様の実験を行いました。1人の被験者(Sub05)は、両方の周波数でSSVEPの検出に成功しています。また、4人の被験者(Sub01、Sub03、Sub04、Sub06)は、一方の周波数でSSVEPの検出に成功しています。

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図6:赤色の光点滅を提示した際の被験者のSSVEPの推定結果①

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図7:赤色の光点滅を提示した際の被験者のSSVEPの推定結果②

その一方で、SSVEPの検出に失敗したケースも生まれました(Sub02)。

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図8:赤色の光点滅を提示した際の被験者のSSVEPの推定結果③

2種類の光点滅で生じた違い

2種類の光点滅を使った実験結果を用いて、脳波AI解析クラウド「NAIS Entry」でモデルの良さを判定しました。モデルの良さを判定する基準は複数個存在します※。今回、AUC(Area   Under the Curve)、正解率(ACC)、F値の3種類の評価値を算出しました。その結果、黄色点滅の場合のほうが、AUCやACCなどの指標で良い結果が得られました。

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表9:SSVEPを推定する機械学習モデルの評価

SSVEPの検出率は、刺激の強さに影響されると考えられ、 今回の結果は、赤色点滅より黄色点滅のほうが刺激強度が強いことが示唆されます。

※参考:NAIS Entryを使ってみよう④NAIS Entryのデータセットは他の機械学習ツールでも使用できる

SSVEPの可能性と応用

今回、前頭部においてSSVEPを検出することに成功しました。しかし、点滅刺激によるSSVEPの強度には個人差があると言われており、 今回の実験ですべての被験者からSSVEPを検出できたわけではありません。

PGVでは今後、SSVEPを活用したBMI/BCIの実用化を目指します。例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や脊椎の損傷、全身まひなど、身体に障がいを持つ方のための補助ツールとしてSSVEPの活用が注目されています。脳波を計測・解析することで利用者の意思を推定し、外部装置に命令を送ることで、身体に障害がある方でもコンピュータの操作が可能になります。

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図10:BMI/BCIの応用例

SSVEPを活用したBMI/BCIの実験もすでに行われており、たとえば足が不自由な方に対して、脳波で車いすをコントロールする実験が行われています。
BCI-based control of electric wheelchair

「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム(徳島)第39回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム(徳島)にて発表の様子

PGVは、脳波AI解析クラウドツール「NAIS Entry」を活用した実験やその結果をブログに掲載していきます。
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