脳波とAIの基礎知識

脳波のAI解析をはじめよう!②なぜ脳波にAIを使うのか?

脳波は他の生体信号に比べて、ヒトの活動や状態を細かく読み取ることができる信号です。が、同時に解析がとても難しい信号です。過去から脳波の解析は行われてきましたが、広く実用化されていません。 そこでPGVでは脳波解析を簡単にするために、積極的にAIを用いています。ここでは、PGVが脳波にAIを用いる背景を説明します。


脳波にAIを使う理由は?

脳波は脈拍や心拍と比べると、波形のパターンが無限に存在して複雑で計測・解析が難しいため、PGVでは積極的にAIを使っています。

前の記事でも説明したように、他の生体信号に比べて脳波はヒトの活動や状態を細かく読み取ることができる代わりに解析しにくい信号です。実用化も、あまり進んでいません。しかし、AIを用いると、脳波計で読み取った複雑な脳波が取り扱いやすくなります。

Printed brain onto circuit board


脳波の解析が他の生体信号に比べて難しい理由は?

「体温が高くなれば、体調が悪い(風邪等の病気)」、「運動時以外で心拍が高くなれば、緊張している」などと、皆さんは理解していると思います。またお医者さんは、心臓の収縮と拡張の動きによって変動する心電図から不整脈を読み取ることで、心臓病を診断できます。

では、どうして皆さんやお医者さんは、このような理解や診断ができるのでしょうか? 体温や心拍、心電図は規則的に動くので、変化のパターン(特徴)をとらえやすいからです。ただ、動きの変化が小さいのでパターンも多くなく、結果としてわかることも少なくなります。たとえば、体温が高くなると体調が悪くなることがわかるのですが、風邪なのか?それ以外の原因なのか?までは直接的にはわかりません。

 

図1-1

 

一方で、脳波は別の記事で説明したように変化はパターン化されておらず、ヒトが把握できないほど不規則であり無限です。そのため、体温や心拍などの生体信号のように簡単にヒトの活動や状態を特定することが難しいです(そもそも日常的に高精度に脳波を測定すること自体が困難ですが、このあたりは別の機会にお話しします)。

これまでの脳波解析は周波数解析が主流

測定・解析が難しい脳波解析ですが、これまでどのような方法が採用されていたのでしょうか?

周波数を用いた解析です。脳波は、4-45Hzの周波数で変化する電気的信号と別の記事では紹介しました。4-45Hzの脳波を下表(PGVで使用している定義)のように分解して、周波数帯域にα波、β波など名前をつけて変化を特徴づけています。

PGVにおける脳波の周波数分解の定義

名称

周波数(Hz)

θ波

4Hz-8Hz

Low α波

8Hz-10Hz

Mid α波

10Hz-12Hz

High α波

12Hz-13Hz

Low β波

13Hz-18Hz

High β

18Hz-26Hz

γ波

26Hz-45Hz

上表だけでも7つの周波数帯域があります。

脳波計による脳波計測には、1箇所ではなく複数の電極を使用します。パッチ式脳波計は額部分のみですが、それでも3箇所の電極で測定します。現在市場へ流通されている多くの医療機器の脳波計では、10-20法と呼ばれる電極配置が一般的で約20電極を配置します。これだけで、7周波数帯域 x 3電極、または、7周波数帯域 x 20電極になります。さらに、周波数分解をする時間軸も考慮する必要があります。このように周波数解析は、非常に多くの次元(パラメータ、要素)を持つデータを使って解析します。

周波数解析方法については、過去に脳波の解析が行われており、数多くの論文が残されています。ほとんどは上記に記載した多次元のデータを、人間が理解しやすい次元にまで削減して評価・解析している場合が多いです。もちろん有益な情報で、周波数解析の有効性を示しています。

ただし、PGVでも論文を基に実験の再現を試みましたが、なかなか同じ結果を得ることはできませんでした。全く同じ試験環境や設備、被験者を用意できないためだと考えています。汎用性の面で周波数解析(周波数分解を行なって次元を削減する方法)には、次元削減による情報の切り捨てがあり、限界があるように感じています。

図2

 

多次元に変化する脳波にAIを適用すれば心身の変化が

上記の通り、たとえ周波数分解をしても次元が多く、ヒトが把握できる範囲を超えています。脳波の変化と心身の変化のパターンを導き出すことはかなり困難です。

そこで、AIによる解析を行います。AI自体の説明は省略しますが、AIを用いると脳波のパターンを理解しないで、ヒトの活動や状態を脳波から直接読み取ることができます。

たとえば、“楽しい”または“楽しくない”と感じているときの脳波をたくさん集めます。そして、脳波を入力(=説明変数)として“楽しい”または“楽しくない”の答え(=目的変数)を出すAI=計算式)を構築します。このとき、ある人の脳波を入力すると“楽しい”または“楽しくない”と判定します。ただしAIは、どのような周波数がどの電極にどの時間単位で含んでいるかなど脳波のパターンは捉えていますが、多次元であるためにヒトの認識範囲を超えています。したがって、心拍のように“高く変化”したから緊張しているというような脳波のパターンに対する理解は諦めた方が良いでしょう。

脳波を入力(=説明変数)として、心身の変化を答え(=目的変数)とするAIPGVでは「脳波AI」と呼んでいます。

PGVの脳波AI解析の初期的なアプローチ

脳波AIでは、ヒトの活動や状態をラベルされた脳波をたくさん収集することが重要です。脳波が多く集まれば、ヒトの活動・状態と脳波の結びつきが可能になるからです。このような脳波AIを数多く開発すれば、脳波を計測することでヒトの活動や状態を客観的に理解できるようになります。裏を返すとヒトの活動や状態をラベルした脳波を収集することが必要不可欠になります。

ただ、脳波データがあれば、簡単に脳波AI解析をできるように思われるかもしれませんが、実際はそれほど簡単ではありません。良質なデータ取得のための脳波計や脳波計測にも、実際のAI解析手法にも色々考慮すべき点があります。概念的なことばかり伝えているので、次回は脳波計測について説明したいと思います。

 


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